国内でもっとも人気のある観光地の一つ、沖縄。リゾートホテルに泊まってマリンスポーツを満喫したことのある方も多いのではないでしょうか。しかし、沖縄の旅のスタイルはこれだけではありません。南の島のゆったりとした時間の中に身を浸し、島の日常を体感するという楽しみ方も。今回はそんな旅ができる島の一つに注目しました。渡名喜島(となきじま)です。沖縄本島と久米島のほぼ中間に位置する小さな島ですが、沖縄の原風景ともいえる集落が今も残り、なんとウミガメにも出会えるというのです。いてもたってもいられなくなった私は、さっそく渡名喜島への島旅に出発しました。
(文・写真、宮﨑健二、トップ写真は島の透明感あふれる海)
全国で2番目に小さな自治体
那覇市の泊(とまり)港からフェリーに乗って約2時間。島が見えてきました。
渡名喜島は面積が4k㎡に満たず、周囲は12.5kmしかありません。すぐ隣には無人島の入砂島(いりすなじま)があり、この2島から成る渡名喜村は、沖縄県内で面積最小の自治体。国内でも2番目に小さいということです。人口は360人ほど。島の観光サイトでは「観光客がもっとも少ない島のひとつ」と自己紹介しています。
フェリーを下り、荷物を宿に預けてさっそく島を歩き始めました。案内してくれるのは、渡名喜村観光協会の事務局長、刑部結(おさかべゆい)さんです。ハイサイ(こんにちは)!
刑部さんは名古屋市出身。2016年に島に来ました。地域おこしのスタッフを3年間務めた後、2019年に観光協会の職員になりました。小さな島の観光協会ですからスタッフは刑部さんただ1人。こんなかわいい手書きのイラストと文字の入った地図を作って訪れた人に提供するなど、島の観光振興のために奮闘しています。
フクギの並木は風対策
まずは集落へ。車1台がやっと通れるほどの道は白砂で、歩いていると足にシャリシャリとした感触が。そして、道の両側にはフクギの並木が続いています。
集落全体にフクギが植えられていますが、これは島特有の強い風を防ぐためだそうです。そういえば、港ではけっこう風が吹いていたのに、集落内では風をほとんど感じません。フクギの役割を実感しました。
フクギの伸びた枝が道をおおってトンネル状になっているところもありました。日差しの強い夏は、きっと涼しいでしょうね。
フクギの切れ目からは赤瓦の屋根の伝統的な民家が見えます。
民家は道よりも掘り下げた敷地に建てられています。これも、風対策だそうです。写真の家は道よりも2mほど低い土地に建てられています。低い土地だと雨で家が浸水しやすいのでは、と心配になりますよね。刑部さんに聞いてみると、「島の地面は白砂なので水はけがよく、浸水の心配はほとんどありません」ということでした。
私が泊まった、ふくぎ屋という宿も赤瓦の屋根の家でした。
ふくぎ屋
沖縄県渡名喜村1909
http://tonakijima.sakura.ne.jp/?page_id=122
家々の門の上にはシーサーが鎮座しています。家ごとに色や形、顔つきが違います。
屋根の上にもシーサーがいましたよ。
道の石垣のそばにカワラナデシコが咲いていました。沖縄では久米島と渡名喜島だけに自生していて、渡名喜村の村花になっています。
道がきれい! その理由は……
歩いている途中でこんな箱を見つけました。
朝起き会? そういえば港のフェリーターミナルにもこんな張り紙が。
この朝起き会は、島の子どもたちがラジオ体操をした後、白砂の道を掃除する島独特の恒例行事。大正時代から続いているといいますから驚きです。たしかに集落の道にはほとんどごみが落ちていません。フクギの落ち葉も見事に片づけられています。刑部さんは「観光客のために掃除しているというのではなく、島の人たちは日常生活の中でごく自然に掃除しているんですよ」。
赤瓦の屋根の家、緑のフクギ、白砂の道、青い空……。南国・沖縄の伝統的集落を残す渡名喜島は2000年に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。沖縄では竹富島とここだけです。この美しい景観の維持には、この朝起き会の活動が寄与しているのは間違いありません。
青く透明な海にワクワク
集落を離れて山道を歩き始めました。小さな島なのに、けっこう高い山や険しい崖があります。汗をかきかき登ると、島の人たちの祭祀(さいし)や礼拝の場である里御嶽(さとうたき)がありました。
そして、その脇には桜の花が。
上ノ手(かんぬてぃ)展望台からは、あがり浜が見えました。きれいですね。
山道を下って、あがり浜に行きました。遠浅の海で、島あげての水上運動会がここで開催されるそうです。
この扉、何のために? 正解は……
浜から集落に行く道の入り口にはこんな大きな装置が設置されていました。何かが集落内に入って来ないようにするための扉のようです。
ここで突然、刑部さんからクイズが出題されました。「これは何のための扉でしょうか?」。テレビのクイズ番組「Qさま!!」のスタジオにいきなり放り込まれたような気持ちになった私は、インテリ軍団のメンバーみたいな顔をして堂々と答えました。「津波対策!」。刑部さんが司会の優香みたいなたたずまいで判定します。「違います」。ショボクレじいさん軍団のメンバーに成り下がった私は考え込み、今度は自信なさげに蚊の鳴くような声で答えました。「風対策ですか?」。刑部さんは「惜しい! 正解は砂対策です」。
そうなんです、防砂扉だそうです。台風が来ると風に舞った白砂が集落に入り込んで来るので、あらかじめこの扉をスライドさせて道の出入り口をふさぐのだとか。重いので、重機を使って動かすそうです。
ウミガメの名所、アンジェーラ浜を目指せ
さらに海岸沿いを歩いてアンジェーラ浜へ。途中、シュンザと呼ばれる一帯を通りました。道を挟んで海の反対側、つまり陸側には険しい崖があります。見上げるほどの高さで、荒々しい岩肌が露出しています。
そして、浜辺に目を転じると、ごらんの通りのちゅら海。対照的な景色を一度に見ることができます。
アンジェーラ浜に着きました。
満潮時にはここによくウミガメがやってくるそうです。しかし、訪ねた時はあいにく干潮時だったので、姿を見ることはできませんでした。残念!
ぐるり360°大本田展望台 クジラ突如現る!
いったん、港近くの村役場に戻り、刑部さん運転の車で大本田(うーんだ)展望台に行きました。ここからは島と島を囲む海を360°見渡すことができます。
展望台から車で道を下っていた時のことです。海を見て刑部さんが「ここからクジラが見えることがあるんですよ」と説明し始めました。その瞬間、潮を吹きながら、海上にジャンプしている巨大な生物を私は発見しました。あぎじゃびよー!(びっくりしたあ!) クジラです! 車を止めてもらい、あわててカメラを構えました。ジャンプは撮影できなかったものの、なんとか体の一部を撮影することができました。
刑部さんによると、島でクジラを見ることができるのは1月後半から3月にかけて。刑部さんも今シーズン初めて見たそうです。「見たかったんですよ」とにっこり。
心まで包まれる幻想的なフットライト
こうして島をめぐっているうちに日が落ちました。港の夕焼けです。
集落内のふくぎ食堂で夕食を食べました。ずいぶん歩いたのでビールのおいしいことといったら、もう。島ダコとキュウリのあえものが絶品でした。
ふくぎ食堂
沖縄県渡名喜村1876
https://www.okinawastory.jp/gourmet/600004006
満腹になって、ほろ酔いかげんで散歩に出かけました。集落の中央部の道にはフットライトがともされています。私は子どものころを思い出しました。生まれ育った福岡市は1960年代には街灯も少なく、夜の道は暗闇に包まれていました。歩いていると心細くなり、街灯の明かりが見えるとホッとしたものです。渡名喜島の夜道のフットライトには、そんな記憶を呼び覚ますぬくもりがありました。
空を見上げると、満天の星が。真上にオリオン座がはっきり見えました。
そこらへんにいる! ウミガメと対面
さあ、2日目です。ふくぎ食堂の朝食でスタート。ゆし豆腐に玉子焼き、ポーク、シャケ、ヒジキ……。元気が出ます。
朝食を終えて、港で刑部さんと再会しました。島をもうすぐ去らねばなりませんが、心残りが一つありました。
「ウミガメを見たかとですよ」
こう話すと、刑部さんは「ウミガメですか? 野良猫みたいにそこらへんにいますよ」。あぎじゃびよー! なんという心強いお答え。でも、本当に、そんな簡単に見ることができるのでしょうか。
「あのへんによくいます」。刑部さんに教えてもらい、漁船が停泊している岸壁に向かいました。
ここだけの話ですが、私は小学3年生の時、学芸会で上演した「浦島太郎」にカメ役で出演したことがあります。四つんばいになって浦島太郎役の同級生を背中に乗せて舞台を精力的に動き回り、主役をしのぐ拍手を受けました。思えばあの時が私の人生の絶頂期だった……。いえいえ、そんな話はさておき、以来、私にとってカメは生涯の友達なのです。
岸壁に着きました。すぐ下の海面をのぞきこむと……。おおっ、いました。ウミガメだあ! いきなりの対面に、あぎじゃびよー。
「やっとかめ」(お久しぶりです)。なぜか名古屋弁であいさつする私。ウミガメは体長60~70㎝くらいに見えました。岸壁から1mほど離れた海面近くを岸壁に沿って悠然と泳いでいきます。時間にしてわずか1分間ほどでしたが、写真撮影には十分な時間でした。なんというサービス精神。私が半世紀以上も前にカメ役で大熱演したことへのご褒美でしょうか。
やがてウミガメは一瞬、首を海面から出すと、海底に消えていきました。竜宮城に帰ったら乙姫様によろしくね~。
港に戻り、特産の島にんじんをおみやげに買いました。朝食のみそ汁に入っていたのですが、よく煮込んであってジャガイモに似た味でした。
帰りのフェリーがやってきましたよ。いよいよ島ともお別れです。
24時間弱の滞在でしたが、渡名喜島の素朴な魅力をたっぷり楽しめました。あらためて刑部さんに話を聞きました。「渡名喜島は観光化が進んでいません。それゆえに、ほかの地域にはない、沖縄の原風景が残っています。昔ながらの集落などをのんびり散策して楽しんでいただきたいですね」。もちろんウミガメも島の名物。「島の人に聞いて場所と時間帯さえチェックしておけば、見ることができる可能性は高いですよ」
最後に、渡名喜島への旅の情報を書き添えておきます。
朝、那覇市の泊港から出る久米島行きフェリーが渡名喜島に寄港します。1日1便です。那覇に戻るフェリーは島を午前中に出てしまうので島で1泊することになります。ただ、4~10月の金曜は午後に帰りのフェリーが運航されるので、滞在時間は短くなりますが日帰りが可能です。往復料金は税込み5230円。
また、民宿など島の宿泊施設には限りがあるので予約が不可欠です。ちなみに、私が宿泊した「ふくぎ屋」は朝夕食付きで1人1泊税込み9000円でした。コンビニはなく、売店も少ないので、バスタオルなどを持参しましょう。小さな離島なので、不便さを受け入れて楽しむ心の余裕が大切だと感じました。
観光協会では有料で島のガイドを行っています。約2時間の集落と外周のガイドは2~6人だと1人2500円(2020年3月時点)。集落のみのガイドもあり、1人でもガイドが可能とのことです。詳しくは下記の観光サイトなどを見て観光協会に問い合わせてみてください。
【問い合わせ先】
渡名喜島観光サイト
渡名喜村役場
久米商船
PROFILE
-
「あの街の素顔」ライター陣
こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、高松平蔵、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一、草深早希
-
宮﨑健二
旅ライター。1958年、福岡市生まれ。朝日新聞社入社後、主に学芸部、文化部で記者として働き、2016年に退社。その後はアウェイでのサッカー観戦と温泉の旅に明け暮れる。
"最も" - Google ニュース
March 16, 2020 at 10:19AM
https://ift.tt/2voX9ul
そこら中にウミガメ! 透明な海! 沖縄で最も観光客が少ない渡名喜島 - asahi.com
"最も" - Google ニュース
https://ift.tt/30AiEUb
Shoes Man Tutorial
Pos News Update
Meme Update
Korean Entertainment News
Japan News Update
No comments:
Post a Comment