新型宇宙船「クルードラゴン」を搭載し、打ち上げられた「ファルコン9」ロケット(30日)=AP
【ワシントン=鳳山太成、シリコンバレー=白石武志】米スペースXが開発した新型宇宙船「クルードラゴン」が30日、打ち上げられた。今回の試験飛行が成功すれば、冷戦下から政府主導で進めてきた有人宇宙開発が民間主導に切り替わる転換点となる。「国家プロジェクト」から「ビジネス」へ新たな軌道に乗るためには、市場競争を通してコストと安全性を両立する必要がある。
米国の有人宇宙飛行は2011年7月のスペースシャトルの退役以来9年ぶり。新型船の打ち上げは1981年のシャトルの初飛行以来、約40年ぶりとなる。民間企業が開発を主導した有人宇宙船が国際宇宙ステーション(ISS)に接続するのは初めてだ。
今回の打ち上げは大きな節目だが、米航空宇宙局(NASA)のブライデンスタイン長官は「あくまで試験飛行であることを忘れてはいけない」とクギを刺す。ISS滞在や地球帰還を無事にこなし、人を安全に輸送できる性能を確認できて初めてNASAがスペースXに「合格」を出す。
巨額の費用とリスクが伴う有人宇宙開発は、旧ソ連と競った1960年代から「アポロ」など政府が一貫して担ってきた。2度の事故で安全対策のコストが膨らんだシャトルの反省から、NASAは民間に開発を移管した。スペースXとボーイングに競わせ、資金と技術を提供する側面支援に回った。NASAは政府主導で開発するより「200億~300億ドルを節約できた」と主張する。
スペースX創業者のイーロン・マスク氏はケネディ宇宙センターで打ち上げを喜んだ(30日)=ロイター
クルードラゴンを手掛けたスペースXは米テスラの最高経営責任者(CEO)でもある起業家のイーロン・マスク氏が02年に設立した。構造が簡単なカプセル型を採用し、操作盤をタッチパネルにするなど最新技術を採り入れた。NASAが31億ドル(約3300億円)を負担し、同社も数億ドルを投じたとされる。
順調にいけば8月にも正式運用が始まる。スペースXが機体を所有・運用し、NASAは「顧客の1人になる」。スペースXが多くの顧客を獲得し、有人飛行を持続可能な事業にするには費用を抑えられるかがカギだ。
米スタートアップのアクシオム・スペースはクルードラゴンで21年後半にも民間人をISSに届ける旅行事業を計画する。1人当たりの料金は5500万ドルとされ、米実業家が2千万ドルでISSに短期滞在した約20年前と比べてもまだ高い。NASAは飛行機や鉄道の1席当たり料金が誕生時からそれぞれ65%、50%下がった歴史をひもとき、宇宙船も「劇的にコストが下がる一歩を踏み出した」(ブライデンスタイン氏)と期待する。
スペースXには無人宇宙開発で価格破壊を引き起こしてきた実績がある。今回の打ち上げに使われたロケット「ファルコン9」は回収したエンジンを再使用する場合は約5千万ドルと、競合する使い捨て型の半額以下だ。とはいえ、命を預かる有人分野は最高水準の安全性が求められるため、企業には「極めてタフ」(スペースX幹部)だ。
米国にとって自前の有人宇宙船を再び持つことは悲願だ。シャトル退役後はロシアの宇宙船「ソユーズ」に頼ってきたが、独占市場となったことで1席8千万ドル超とここ10年で3倍以上に高騰した。外交関係が悪化してロシアの船が使えなくなるリスクもある。米ジョージワシントン大のジョン・ログスドン名誉教授は「米国が世界首位の宇宙大国であるためには、他国に依存することはできない」と指摘する。
打ち上げ後、トランプ氏は「米国の野望の新たな時代が始まった」と演説した(30日)=ロイター
「米国の野望の新たな時代が始まった」。トランプ大統領は30日、打ち上げ後にケネディ宇宙センターでこう演説した。トランプ政権は24年までに再び月面に米国人宇宙飛行士を着陸させる「アルテミス」計画を掲げる。今回とは異なるロケットや宇宙船を使うため直接は関係しないが、議会から予算を獲得するにはクルードラゴンの成功は必須条件だ。
最高水準の技術が求められる宇宙は軍事、商業、科学のあらゆる分野で大国が覇権を争う舞台だ。中国による有人宇宙船打ち上げは2003年と歴史は浅いが、独自の宇宙ステーションの22年完成を目指すなど国主導で米国を猛追する。旧ソ連時代から米国としのぎを削ってきたロシアは中国との連携も探る。米国が民間企業が主役を務める自由市場経済の優位性を示す上でも、新型宇宙船の成功は欠かせない。
多くの人が見守るなか、上昇する新型宇宙船「クルードラゴン」(30日、フロリダ州)=AP
2020-05-30 23:04:01Z
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