ハリウッドでは有名でも、日本ではまだその名が知られていない女優がいる。第77回ゴールデングローブ賞の主演女優賞をはじめ、数々の賞レースで注目を集めた話題の映画『フェアウェル』。物語のキーとなる唯一の日本人、花嫁役を好演した女優が水原碧衣だ。 中国で女優としてのキャリアを先に築いた水原が、なぜ日本で活躍の場を求めずに、ハリウッドデビューを果たしたのか。国際派女優の素顔に迫った。
ハリウッドは夢のまた夢。目標にすら思えない場所でした
――『フェアウェル』のルル・ワン監督は、ハリウッド版の『そして父になる』でメガホンをとるとも言われている有名監督です。さらに、ゴールデングローブ主演女優賞をアジア系で初めて受賞したオークワフィナをはじめ、数々の大作に出演する女優や俳優とも共演しています。どのような形で出演のオファーが届いたのでしょうか? 水原:’18年の春ごろ日本にいた時に中国で一番人気のクイズ番組から突然オファーがあり、収録後に友達がいる北京に寄ったんです。ちょうど帰国前日の夕方、知らない男性から突然連絡があって、「カメラテストがあるから今から来てくれ」と。誰かもわからないし、正直怪しすぎるじゃないですか。何を聞いても「26歳、日本人女性役」としか答えず、映画なのかドラマなのかもわからないんです。 何度断っても頑なでしまいには私の宿まで来てずっと下で待ってるとまで言いだして……。後で聞いたら、彼は外国人専門のエージェントが儲かると聞いて突然エージェントを始めたばかりの中国人でした。
『パラサイト』監督のポン・ジュノが声をかけてくれた
――実に中国らしいエピソードで、そんな方を出入りさせる映画関係者もぶっ飛んでいますね。 水原:怪しげなエージェントの方は人生で一度も日本人と会ったことがないからしつこく食い下がったのも単に興味本位で。実際、彼とは契約すら交わしてないんですよ。肝心のカメラテストは日本語で花嫁がスピーチをする場面だったんですが、本当言うと演技をしたという自覚がないんです。 緊張感を持ちつつ、若干照れながら素の自分でスピーチをしたら「見たか! これこそが演技だ! 他の俳優にも見せてやりたい」とキャスティングディレクターが大絶賛してくれたんですが、私は逆にきょとんとしてました。その後、帰国して新宿でお茶していると、再びあのエージェントから連絡が……。 ――どんな内容の連絡でしたか。 水原:私が日本にいるので監督が今から最終オーディションをリモートでしたがっていると。突然すぎて場所もないと断ったんです。すると、「今はこういう事情でリモートオーディションができません。すみませんと言う映像を送ってくれ」とエージェントに言われて、カフェのお手洗いの中で弁明を自撮り。外からドアをトントンされて謝ったりと本当に大変だったんですが、映像を送るとその抜けてる感が逆に良かったのか、出演が即決定したんです(笑)。 ――ロサンゼルスタイムズではアカデミー作品賞の筆頭候補に挙げられるなど、海外メディアは『フェアウェル』を評価しました。結果は同じアジアを舞台とした韓国映画『パラサイト』が受賞してアジア映画初の快挙を達成。『フェアウェル』もストーリーの大半は中国が舞台なのでライバル意識はありましたか? 水原:放送映画批評家協会賞で『フェアウェル』が4部門にノミネートされ私も授賞式に出席させていただいた時、『パラサイト』の方々も当然出席されていました。挨拶しようと周りにいると、通訳の方が私に気づいてくれて「フェアウェルの花嫁のコ」と言うと、監督のポン・ジュノさんが「フェアウェル、すごく良かったよ。君もすごく良かった」と声をかけてくれたんです。同じアジア系で親近感が強かったようです。
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