この夏、電力需給がここ数年で最も厳しい状況になると見込まれています。そしてこの状況は、冬も続くと指摘されています。なぜそんな状況になっているのでしょうか。そして暮らしへの影響は?経済部の西園興起記者に聞きます。
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西園記者
すぐに足りなくなるわけではありません。ただ、ある指標がここ数年で最も厳しい水準になっているんです。
それが「予備率」。予備率は、電力会社による供給の余力がどれぐらいあるかを示していて、最低限必要とされる水準が3%。「10年に1度程度の猛暑」だと想定した場合、この夏の各電力会社管内の予備率は以下のとおりです。
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各地で同じ水準となっているのは、地域ごとに需給状況に大きな差が出た場合、電力会社どうしで融通することが前提となっているため。各管内とも3%をかろうじて上回っています。
ただ、例えば「関西」の8月の予備率は、2020年は8.1%、2019年は5.0%、2018年は8.4%ありました。「東京」「中国」なども同じような状況で、ことしの3.8%はここ数年で最も厳しい水準です。
西園記者
火力発電所の「供給力」が減っているからです。2020年度の夏に稼働していた設備のうち、2021年度の夏に供給力として見込めない火力発電所は、大手電力会社分だけでもおよそ830万kWあります。
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電力会社の間では、老朽化した火力発電所を休止したり廃止したりする動きが相次いでいます。
太陽光発電の普及が進む一方で、電力会社は、需給バランスを保つために、再生可能エネルギーによる発電が増える日中の時間帯などは火力発電の稼働率を落とすため、その結果、火力発電の採算が悪化していることなどが背景にあります。
再生可能エネルギーの発電は増えてはいますが、火力発電の大幅な減少を補うまでにはいたっていません。
西園記者
経済産業省は、予備率がひとまず3%を上回っていることなどから、節電の要請は行わないことを決めました。
現在、公表されている気象庁の3か月予報では、ことしの7月の平均気温は全国的に「平年並みか平年より高くなる」見込みとされています。ただ、もし想定を超える暑さとなったり、発電所のトラブルが重なったりすれば需給がさらに厳しくなるおそれもあります。
このため、家庭・企業・電力会社に次のような対策を求めることにしています。
- 家庭には、冷房の利用などふだんどおりの生活を続けながら、使っていない部屋の電気を消すなど、支障のない範囲で電気を効率的に使う。
- 企業には、オフィスや工場での省エネに加えて、電力需要が高まる時間帯に電気の使用を抑える取り組みに応じるよう要請する。
- 電力会社には、発電設備のメンテナンスを徹底しトラブルを防ぐとともに燃料の十分な確保を要請する。
西園記者
そうなんです。経済産業省は、この冬の電力需給は一段と厳しくなると見込んでいます。
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「10年に1度程度の厳しい寒さ」を想定した場合、2022年1月の東京電力管内では、予備率は-0.2%と、供給が需要をまかなえない深刻な状況になるとしています。2月も予備率が-0.3%になると見込まれています。
さらに中部、北陸、関西、中国、四国、九州のエリアでも、2022年2月は、予備率がそれぞれ3%と安定供給を確保できるギリギリの水準まで低下する見通しです。
経済産業省は、東京電力管内を中心に発電所の補修の時期を冬以外にずらすことや企業などに対し緊急時に自家発電を動かすよう協力を求めることにしています。
それでも足りない場合には、電力会社に対し、休止している火力発電所を運転するよう要請することも検討するとしています。
西園記者
火力発電の供給力は減少が続く見込みで、何も手を打たなければ、需給が厳しい状況は続くと見られます。脱炭素の実現を進めながら電力の安定供給とどう両立させていくのか、難しい課題です。
経済産業省は、火力発電所を休止や廃止する場合に事前に届け出を求めるなど、供給力の減少をあらかじめ把握するための制度的な検討も進めることにしています。
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エネルギー問題が専門の国際環境経済研究所の竹内純子理事は、「電力需要が増える時期に供給側のひっ迫が頻繁に起きるようになっていることは構造的な課題。電力はインフラ中のインフラであり、安定供給を確保するためにどのような対策が必要か、そして二酸化炭素の排出削減をどう担保するのかというバランスが大事だ。エネルギーの転換は非常に時間がかかるので腰を据えて取り組むことが必要ではないか」と指摘しています。
からの記事と詳細 ( ここ数年で最も厳しい状況になると見込まれる夏の電力需給 暮らしへの影響を解説 | NHK - NHK NEWS WEB )
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