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Sunday, November 28, 2021

【動画】中国から最も台湾に近い島ルポ 大橋&高速鉄道、増す統一圧力 - 西日本新聞

 ♪あの列車に乗って台湾へ行こう。あの2035年に♬-。台湾を巡って米中関係が緊張した今秋、中国の動画投稿サイトで「2035去台湾(2035年に台湾へ行く)」という歌が拡散された。台湾統一を悲願とする中国の習近平指導部は、北京と台北を中国版新幹線の高速鉄道や高速道路で結ぶ超長期計画を進めている。中国本土で台湾本島に最も近い福建省の平潭(ピンタン)島(海壇島)を訪れると、島と中国本土をつなぐ海峡大橋が既に完成していた。 (平潭島で坂本信博)

 北京から南へ約2千キロ。福建省の省都、福州はピンク色のブーゲンビリアや緑の濃いガジュマルが茂る南国の街だ。訪れた11月上旬の気温は22度。同じ日、北京は初雪が降った。中国の広さを感じつつ、市中心部から車で走ること約1時間。平潭へ向かう「京台高速道路」の料金所が見えてきた。北京の「京」と台北の「台」を冠した道路だ。中国当局の本気度を感じた気がして胸がざわついた。

 昨年暮れに運用が始まった全長16・34キロの「平潭海峡道路鉄道併用大橋」を進む。その名の通り、上層に6車線(片側3車線)の高速道路、下層に複線の高速鉄道用線路が敷かれた巨大な橋だった。

■台湾まで30分

 中国政府が今年2月に発表した35年までの「国家総合立体交通網計画綱要」などによると、平潭島と台湾本島を長さ約130キロの橋か海底トンネルで結ぶことを計画している。島内の平潭駅と、IT産業の集積地で「台湾のシリコンバレー」と呼ばれる新竹の高速鉄道駅を約30分で往来できるようにするという。

 壮大な構想の実現可能性を地元当局の男性職員に聞いてみた。彼は「台湾の同胞が望めば、実現できる強い意志と資材と技術を中国は持っている」と即答した。「台湾統一が前提?」と問うと「…その質問には答えられない」と返された。

 中国のインフラ整備力は確かにすさまじい。日本の新幹線は1964年の開業以来57年間で総延長約2800キロに達したが、採算度外視の中国の高速鉄道は昨年だけで約3千キロが新たに開通。総延長は3万7900キロに達し、世界一を誇る。北京と台湾を結ぶという「京台高速鉄道」も既に運行されており、北京と現時点での終着駅の平潭を12時間余りで結んでいる。

■開発ラッシュ

 「平潭は百年に一度ではなく千年に一度の機会を迎えた」。島の入り口に習近平国家主席の言葉とサイン入りの大看板があった。

 福建省で17年間働き、省長も勤めた習氏は島への思い入れが強いとされ、20回以上視察に訪れている。国家主席就任翌年の14年に、島を台湾と中国本土を結ぶ窓口とする国家的なプロジェクトを発表。島出身の男性(54)は「貧しい漁村だった島が見違えるように急発展した」と振り返る。

 淡路島ほどの大きさの島内には、台湾への延伸を意識した8車線の幹線道路が延び、約30階建ての超高層マンションがあちこちで建設中だった。台湾企業の誘致地区や台湾文化広場のほか、台湾製品を売る免税市場もあった。軒を連ねる店舗の看板は中国の標準語である簡体字ではなく、台湾で使われている繁体字。「リトル台北」の雰囲気を演出していた。

 福州から島を訪れていた男性(58)は「広東省の深圳が香港と結びついて発展したように、台湾とつながることで島を発展させたい」と笑顔を見せた。

 ただ、島民の多くは漁業や都市部への出稼ぎで生計を立てており、民家は沖縄の伝統的な家屋に雰囲気が似た石造りが中心。幹線道路脇では、牛が荷車を引いていた。企業誘致地区は人影がまばらで、台湾との経済交流がどこまで深まっているかは分からなかった。

■海峡を望む岬

 島の東端の岬に「68海里風景区」という観光スポットがある。台湾の新竹まで68カイリ(約126キロ)で、「最も台湾に近い場所」として人気という。台湾や中国本土をかたどったオブジェが立ち、家族連れやカップルが台湾海峡を背に記念写真を撮っていた。

 日本語で「帰りを待ち望む」「両岸の同心窓」と書かれた看板も。寄せ書き板には、ハートマークや恋人同士の名前に混じって、中国語で「必ず台湾を解放しよう」と書いてあった。あちこちに警備員が立ち、「軍用地のため空撮禁止」という警告板もある。地元住民によると、島内には軍の飛行場もあるという。

 台湾海峡では1996年、台湾初の民主的な総統選挙を威嚇するため、中国が台湾近海にミサイルを発射する軍事演習を実施。米軍が空母を派遣してけん制し、軍事的緊張が高まった過去がある。島内を巡ると「鋼鉄の万里の長城を築くため」と書かれた兵士募集の看板や、安全保障に関する横断幕を見かけた。

■強硬路線封印

 台湾統一は「レガシー(政治的遺産)を残せていない習氏にとって、改革・開放政策で中国の経済成長を導いた鄧小平氏を超え、建国の父の毛沢東氏と肩を並べるために何とか実現させたい悲願」(北京の外交筋)とされ、「(統一へ)武力の使用は放棄しない」とも明言してきた。

 習指導部は、覇権を争う米国が台湾の蔡英文政権と結びつきを強めることを警戒。中国人民解放軍のトップを兼務する習氏は10月初旬、台湾への軍事的な圧力を強化するよう軍に指示したという。

 だが最近は、強硬路線を封印しているように映る。今月11日、中国共産党が40年ぶりに採択した「歴史決議」でも、16日のバイデン米大統領とのオンライン首脳会談でも、習氏は「平和的統一」を強調した。

 1強体制を築き上げ、歴史決議で権威も手にした習氏は来秋、5年に一度の共産党大会で異例の3期目入りが確実視される。強硬路線の封印は、終身支配が現実味を帯びてきた習氏が成果を焦る必要がなくなり、台湾統一に腰を据えて取り組めるようになった証しとの見方がある。

■アメとムチ戦略

 島で働く50代の男性に、台湾統一について考えを聞いた。男性は「台湾人の約8割は福建省にルーツがある。福建の人間は、戦争してまで統一すべきだとは思っていない。身内で殺し合うようなものだから。『武力で統一しろ』と言っているのは、内陸のネット民だよ」と語り、言葉を継いだ。「習主席は福建で長く働いて実情が分かっているから、最後まで武力行使を我慢すると信じている」

 習氏は19年、台湾政策を巡る演説で「福建省沿岸から電気、ガス、橋をつなげる」と指示した。インフラ整備や経済交流を通じて中台の結び付きを強め、台湾側の民心を取り込む狙いがあるとみられる。高速鉄道建設計画もその一つだ。

 中台を結ぶインフラ整備計画を一方的に進めて台湾の親中派に秋波を送りつつ、アジア太平洋地域で米軍に対抗できるレベルまで軍事力を増強して台湾を威嚇する「アメとムチ」の長期戦略か。ネット上で急拡散された「2035去台湾」の歌も、当局による宣伝と宣言の可能性がある。

 鉄道や道路で中国本土とつながることを、台湾の蔡政権は拒んでいる。平潭島内で働く台北出身の男性(50)も「中国と台湾では文化に違いがあるから期待はできない」と冷ややかだ。

 夜になり、平潭駅から高速鉄道に乗って中国本土に戻ることにした。豪華な駅舎は閑散としており、定員600人超の列車に乗客は30人もいない。ホームの先の暗闇に目を凝らすと、線路がないことを示す赤色灯と「終点」というプレートがあった。鉄路が台湾まで延びる日は来るのか。

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