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Sunday, July 19, 2020

旅行作家が出会った世界で「最も辛かった」料理とは?(dancyu) - Yahoo!ニュース

■世界を旅した結果、辛味中毒に お題の「カレーとスパイス」から、とくにスパイスの話をしたいと思う。なかでも「辛い」話を。 世界を自転車でまわって7年半ぶりに帰国し、日本の日常に戻ったある日、ある異変に気付いた。うどんに七味をかけて食べると、どうも物足りない。再び七味をかける。まだ足りない。またかける。そうしているうちにおつゆが真っ赤になっていた。しかも「あんたそれかけすぎちゃう?」と母に言われるまで、自分では異常とも思わなかった。世界各地で現地の料理を食べているうちに、辛味に慣れ、やがて麻痺し、あまつさえ少々中毒になっていたらしい(いつの間にか治っていたが)。 それぐらい、世界を旅するとあちこちで辛いものを食べる。 なかには、やむにやまれず辛くしたんだろうなと思う料理もあった。 アフリカのガーナでは、肉や魚と野菜を煮たものをご飯にぶっかける西アフリカの料理「リソース」が屋台の定番なのだが、いやに脂っこいうえに、機械油が混じっているんじゃないの?と疑うくらい臭い。油粘土みたいなにおいだ。 もっとも、僕が食べた店がたまたまそういう店ばかりだった可能性もある。だから今後も、そしてこれまでも、「あくまで僕の印象では」という前提がつくことを断っておきたい。ついでに言うと、この連載に書くあらゆる事象には(個人の体験です)というカッコがつく。 そんなわけで、ガーナの料理は"僕の印象では"脂っこくて臭かった。毎日暑さに参っていたこともあり、においをかぐだけで吐き気を催した(個人の体験です)。 おまけにガーナのリソースはときどき首をかしげるくらい辛かった(他国のリソースは基本的に辛くない)。脂臭さをごまかすために辛味を入れているんじゃないの?と思った。実際、ある屋台で食べたリソースはあまりの辛さに舌が痺れ、涙や鼻水が出て味覚も嗅覚も麻痺し、おかげで脂臭さを一切感じなかったのだ。もっとも、辛すぎて結局はやはり大量に残したのだが。 世界一料理が辛い国、というざっくりした評価は、いくつかの国に対して語られるが、ひとつはブータンだ。 たしかに料理には唐辛子をよく使う。ただ、辛味のためというより、どちらかというと野菜としてだ。国民食ともいえる「エマダツィ」は青唐辛子とチーズを煮込んだ料理だが、細長いピーマンといった感じで、なかには痛烈な"当たり"もあったが、料理自体にはそこまで激辛の印象はなかった。 インドでもときどき猛烈に辛いのに当たったが、全体的には思ったほどではなかった。「カレーとスパイス」の1話目に書いたが、インドで食べた料理で一番辛かったのは、なぜかある町で食べた焼きそばだった。 ■リゾート地で出会ったグリーンカレー では、僕が世界一周の旅で食べた料理で最も辛かったのは何かというと、タイのパンガン島で食べたグリーンカレーだ。 パンガン島はタイ屈指のリゾート島だ。欧米のビーチかと見まがうような様子で、いかにもパーティー好きな雰囲気の西洋人がわんさかいて、同じようなレストランバーばかり並んでいる。重低音を強調した音楽がやかましく鳴り響き、ハリウッド映画が大画面に流れ、店の前に掲げたメニューにはスパゲティにピザにホットドッグ......。 僕が泊まった宿も、客は白人ばかりで、夜中も大音量で音楽を流していた。あまりの騒音に耐え兼ね、「何時だと思ってんだ」と苦情を言いにいったら、ラリッた白人が「君は何言ってるんだ?ここは君の国じゃない。タイの島だ。現地の価値観にシフトしたほうがいい」などと心得顔で言うので、「これはタイじゃなくてお前らの文化だろうが!」とブチ切れた。 翌日、ビーチエリアから離れ、島の奥へと入っていくと、掘っ立て小屋の並ぶメシ屋街があった。あたりには外国人の姿はなく、地元のタイ人ばかりだ。鶏やひよこが歩きまわっている。南洋の素朴な島だ。ああ、やっと着いたよ。僕の求める"こっち側"の世界だ。料理も"こっち側"のほうがずっと旨いんだよ。そう思いながら一軒の店に入った。メニューはないので、鍋のひとつを指す。グリーンカレーだ。大好きな料理だ。 ひと口食べた瞬間、ぶおおおっとゴジラのように火を噴いた。味なんて1ミリもわからなかった。痛みしかない。涙と鼻水が出て過呼吸が起こった。しばらく悶えているうちに、ちょっと治まった。少しはこの辛味にも慣れたかな。もう一度トライしてみる。またしてもぶおおおっと火を噴き、悶えた。店のおじさんも客も笑っている。その2口で投了。ギブアップ。よりにもよってこんなリゾート島で、こんな本気のグリーンカレーに出会うなんて......。 しばらく口の中が痛かったが、夜にはなんとか平静に戻ったので、"あっち側"のビーチに行ってスパゲティを食べた。相変わらずクラブサウンドの重低音がズンガズンガと鳴り響いていた。 文:石田ゆうすけ 写真:竹之内祐幸

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