大阪府の吉村府知事から、『ポビドンヨード(商品名イソジン)のうがいが新型コロナウイルスの量が減る』という趣旨の発表があり波紋を呼んでいます。
発表後の状況をみると、現場からみるとちょっと心配になる情報発信ではと思い、医師の目から解説してみようと思います。
ポビドンヨードによるうがいは、『風邪予防に有効ではない』という研究結果があります
医療者のなかで、とても有名な研究があります。
『風邪を予防するために、どんなうがいをすればいいか』というテーマの研究です。
その研究には、健康な大人387人が参加しました。
そして、1)水でうがいをするグループ、2)ポビドンヨードでうがいをするグループ、3)特にケアをしないグループ(対照群)にランダムにわかれ、その後60日間でどれくらい風邪をひくリスクが変わるかというテーマで検討されました。
すると、水のみでうがいをすると、うがいをしないグループよりも風邪にかかる確率が下がったものの、ポビドンヨードでうがいをするグループは効果が認められなかったのです(※1)。
(※1)American journal of preventive medicine 2005; 29:302-7.
ポビドンヨードは確かに、細菌やウイルスをつよく叩く効果があります。しかし、水のみのうがいのほうがポビドンヨードのうがいよりも有効だったということになったのです。
なぜでしょうか?
ポビドンヨードは強力な殺菌性ゆえに、のどや口の中にもともといる『正常な細菌』をも叩いてしまい、さらには粘膜なども痛めてしまうからと考えられています。強すぎるゆえに『総合的には効果が相殺されてしまう』のですね。
また、一般的に、ポビドンヨードのうがい薬の安全性は高いと考えられますが、長期使用に関しては甲状腺機能を障害する可能性が指摘されています。
そのため、長期に使い続ける場合は定期的な検査が推奨されます(※2)。
(※2)Sato K, et al. Internal Medicine 2007; 46:391-5.
新型コロナのPCR検査が陰性なら、新型コロナによる悪化が減らせる?
今回の報道をみるかぎり分かることはひとつです。
『ポビドンヨードによるうがいをすると、一時的に唾液(つば)の中の新型コロナの量が減るということ』です。
ここで注意したいことがあります。
『唾液(つば)の検体でPCR検査が陰性化すること』と、『新型コロナによる悪化を防ぐか』は、似ていますが、同じではないということです。
例えば、こんな有名な研究があります。
心筋梗塞の後に、症状がないもしくは症状が軽い不整脈(心室期外収縮)がある方を対象にして、不整脈を減らすための薬を使って不整脈を減らすと、亡くなる方が減るのではないかというテーマの研究です。
すると、不整脈の薬を内服された方のほうが不整脈が減ったのに、むしろ不整脈で亡くなる方は増えてしまったのです(※3)。
(※3)N Engl J Med 1991; 324:781-8.
もちろん、不整脈薬が全部わるいという意味ではありません。
メリットが大きい場合は薬も必要なのですが、検査結果を良くしても最終的にはデメリットが大きくなってしまう可能性もあるということです。
私も、ポビドンヨードによるうがいで感染が少なくなればいいなと思っています。しかし今のところ、ポビドンヨードによりうがいに関しては、『答えを明確に出せない、もしかすると長期的な使用で害もあるかもしれない』方法かもしれないと心配しています。
『うがいでPCR検査が陰性化』をどのように捉えればいいでしょうか?
ここで、ちょっと例えをだしてみましょう。
あなたが、『インフルエンザかもしれない』と病院に行ったとしましょう。
その受診したときの医師に『ちょっとうがいをしっかりしてみてください』と指示されて、しっかりとしたうがいをしたとして、その後にインフルエンザの検査をのどで行い、その検査結果が陰性だとしましょう。
『陰性ですね。インフルエンザではありません』と、あなたは診断されました。
どう思うでしょうか?
あなたは、『鼻で検査をしたら陽性にならないんでしょうか?』
と思わないでしょうか(※※)?
繰り返しになりますが、今回の報道は、唾液の中の新型コロナが減っても、その後の新型コロナによる悪化が防がれるという研究結果ではないのです。検査の陽性率が下がった、という結果です。
うがいによって、一時的に新型コロナが検出されにくくなっただけなのかもしれないのです。
なお、新型コロナに関して、『予防的・定期的なポビドンヨードの使用が有効かどうか』は現在2本の研究が進行しているようです。これらの結果をみてからでも遅くはないように思います(※4)(※5)。
(※4)https://www.clinicaltrialsregister.eu/ctr-search/trial/2020-001721-31/GB
(※5)https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04364802
うがいは、『一時的に人に感染させるリスクを減らす』にはいいかもしれない
ポビドンヨードでうがいをする場面はどんな場合でしょうか?
たとえば、飛沫のなか含まれる新型コロナの量を短時間減らし、『飛沫による拡散を一時的に減らす』効果を期待するときでしょう。
たとえば、『新型コロナにかかっているけれども、無症状のひと』が3~4割いると推定されています。
ですので、エアロゾルが沢山でそうな処置をしなければならないなら、その前にうがいをしっかりするといいかもしれませんよね。
実際に、歯医者さんでの処置の前にうがいをしっかりすると、歯科医への新型コロナの感染リスクを低減するかもしれないという考え方も報告されています(※6)。
(※6)Journal of Oral Microbiology 2020; 12:1794363.
口の中を清潔に保つ、『口腔ケア』は重要です
一方で、体調を崩したときに、口の中の清潔をたもつ『口腔内ケア』は重要です。
新型コロナに限らず、歯磨きなどで口の中の清潔を保つと、肺炎などのリスクが下がることがわかっています(※7)。
(※7)Br Dent J 2017; 222:527-33.
ですので私は、PCR検査を陰性化させることが目的というより、口の中清潔を保つことの方を優先するといいのではないかと思っています。
つまり、普段から丁寧にうがいしたり歯磨きをしたりをしておくといいのではということですね。
なお、ポビドンヨードの転売は、法律違反になります。転売された製品を見かけても購入しないようにしましょうね(※8)。
(※8)医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
※※インフルエンザによる検査は、のどで検査をすると偽陰性(ほんとうは陽性だけれども、検査では陰性と誤って出てしまう)になりやすいですので、普通は鼻から検体をとります。
※※※2020/8/4追記 初出でポピドンヨードとポビドンヨードが混在していましたが、『ポビドンヨード』に統一しました。
2020-08-04 12:32:19Z
https://news.google.com/__i/rss/rd/articles/CBMiQWh0dHBzOi8vbmV3cy55YWhvby5jby5qcC9ieWxpbmUvaG9yaW11a2Fpa2VudGEvMjAyMDA4MDQtMDAxOTE3MjEv0gEA?oc=5
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