和歌山県田辺市で2018年、資産家で「紀州のドン・ファン」と呼ばれた会社経営者野崎幸助さん(当時77歳)が急性覚醒剤中毒で死亡した事件で、県警は28日、元妻の会社役員・須藤早貴容疑者(25)(東京都品川区)を殺人と覚醒剤取締法違反容疑で逮捕した。須藤容疑者はSNSで知り合った覚醒剤の密売人と接触していた可能性があり、県警は入手した覚醒剤を飲ませて殺害したとみている。
発表では、須藤容疑者は妻だった18年5月24日、田辺市内の野崎さん宅で、野崎さんに何らかの方法で致死量を超える覚醒剤を飲ませて急性覚醒剤中毒にさせ、殺害した疑い。県警は、須藤容疑者の認否を明らかにしていない。
野崎さんは事件当日の午後10時半頃、自宅2階寝室のソファで倒れているのを須藤容疑者と家政婦の女性が発見、死亡が確認された。
野崎さんが自ら覚醒剤を使用した形跡はなく、県警は殺人容疑で捜査。捜査関係者によると、須藤容疑者のスマートフォンを解析するなどした結果、須藤容疑者が事件前、インターネットで覚醒剤について検索し、SNSで連絡を取った密売人と田辺市内で会ったとみられることが判明した。
野崎さんは事件当日の夕方、自宅で須藤容疑者と2人きりで夕食を取っており、県警はこの際に、入手した覚醒剤を服用させた可能性が高いとみている。
野崎さんは田辺市出身。中学卒業後、廃品回収業を地元で始め、貸金業で大阪や東京に進出した。和歌山でも酒の販売業や不動産業など複数の事業を展開。多額の窃盗被害に遭った際にはワイドショーに出演し、資産家として全国的に知られるようになった。
16年と18年には、多くの女性との交際遍歴や成り上がっていく半生を記した自伝を2冊出版。スペインの伝説のプレーボーイになぞらえて「紀州のドン・ファン」と呼ばれた。
直接証拠乏しく逮捕まで3年
事件は直接証拠が乏しく、容疑者の逮捕までに3年を要した。
県警は、野崎さんの遺体に注射痕がなく、覚醒剤成分が長く残留する毛髪の検査で異常がなかったことから、覚醒剤を摂取させられたと断定。防犯カメラの映像などから、家にいたのは野崎さんと須藤容疑者の2人だけだったと絞り込んだ。
須藤容疑者は任意の聴取で一貫して関与を否定。事件当日、野崎さんがビールを口にしていたことから、県警は野崎さんの酒類販売会社にあった2000本以上のビールの空き瓶を押収して調べたほか、直前に急死した野崎さんの愛犬の死体も掘り起こしたが、いずれも覚醒剤成分は検出されなかった。
その後、須藤容疑者のスマートフォンの解析で、覚醒剤の密売人と接触した可能性が浮上。逮捕に踏み切ったが、須藤容疑者が野崎さんに覚醒剤を飲ませたという目撃証言などはない。
近畿大法学部の辻本典央教授(刑事訴訟法)は「状況証拠だけで犯行時間帯や第三者の関与がないかなどを特定するのは膨大な作業になる。殺意につながる動機の解明もしなければならず、県警は限られた時間の中で、慎重な捜査が求められる」と指摘している。
2021-04-28 13:49:00Z
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