* * * 空手は琉球王国時代の護身術、琉球古武道がルーツといわれる。男子形(かた)の喜友名諒(31)は、空手発祥の地・沖縄の誇りを胸に初の五輪に臨む。 「形」は敵を見立てて防御技と攻撃技を組み立てて行われ、技の正確さ、力強さやスピードを競う採点競技だ。 喜友名はコートに立ち、深く一礼すると、まるで目の前に敵がいるかのような鬼気迫る眼光で前をにらむ。空気を切り裂く音が響く突き、ゆったりしているのに一瞬の隙も与えない足の運び、技を放つ際の気迫あふれる声。見る者を圧倒する。 世界選手権は3連覇中、アジア選手権は4連覇中、全日本選手権は9連覇中だ。内容も2位以下に大差をつける圧勝で、2020年1月の国際大会プレミアリーグ・パリ大会では、審判の一人が史上初の満点を出したほど。昨年には国際大会プレミアリーグの優勝回数が19となり、ギネス世界記録にも認定された。これらの実績から、「全競技で金メダルに最も近い」とも言われる。 ■本物の空手を示したい 5歳で空手を始めた。中学2年で全国制覇した翌年に劉衛流龍鳳会会長の佐久本嗣男・日本代表男女形監督(73)に弟子入り。技術だけでなく、一つ一つの技の意味も考え、礼節を尊ぶ平和の武としての精神性にも重きを置き、鍛錬してきた。 同じ流派の先輩で、世界選手権女子団体形で2度優勝経験のある清水由佳さんは喜友名の強さをこう説明する。 「きまじめで、決して器用な選手ではない。例えば『わきを締めろ』と言われたら、加減がわからず必要以上に締めてしまうようなところもある。そんな中、努力と空手への思いがあってここまで強くなった。どんなに連覇しようが、金メダルのプレッシャーがあろうが、おごりや焦りもなく、メンタルが常に安定している。どんな状況でも平常心で挑めるのも喜友名の強みだと思います」 空手は24年パリ五輪では採用されなかった。東京五輪は空手の存在感をアピールする舞台となる。 「本物の空手を世界に示したい」
そんな矜持(きょうじ)で、喜友名は金メダルに挑む。 女子形の清水希容(27)も金メダル候補だ。世界選手権で2度優勝するなど実力は申し分ない。形は女子が8月5日、男子が6日にある。 空手のもう一つの種目、組手は相対する2選手が、決められた部位に突き・蹴り・打ちを速く、正確に、力強くコントロールして攻撃する。通常は5階級だが、今大会は3階級に集約されるためメダル争いは熾烈(しれつ)だ。女子61キロ超級の植草歩(29)、男子75キロ級の西村拳(25)にも注目したい。(編集部・深澤友紀) ※AERA 2021年8月2日号より抜粋
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