ウクライナ情勢を巡り、国際社会の緊張が高まっています。ウクライナ国境周辺に10万人規模の兵力を展開するロシアに対し、米国などが撤退を求めています。なぜ、ウクライナなのか。何が危機を招いているのか。さらに緊張が高まれば、どんなことが起こりうるのか。日本はどう対処すべきなのか。ロシアの軍事事情に詳しい、東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠さんに聞きました。
ロシア軍、1年前から国境に続々集結
――ウクライナを巡り、いまなにが起きているのでしょうか。
昨年の2月くらいから、ロシア軍の戦力がウクライナ国境周辺に続々と集まり始めました。ちょうど、ウクライナのゼレンスキー政権が、ロシアによるクリミア半島の実効支配に批判を強めたり、国内にいる親ロシア勢力に対して締め付けを強めたりし始めた頃でした。一時は11万人ほどがウクライナ国境に集まったと言われています。ただ、ロシアは同年5月ごろに一部を撤退させ、そして同年6月、プーチン大統領と米国のバイデン大統領が初の首脳会談を実施しました。ここで両国は互いを強く非難せず、核軍縮など、話し合いができる部分で協議を進めていく方向になった。私はこの時、米ロ関係は「いったんはデタント(緊張緩和)の方向かな」と考えました。ですが、事態は私が予想しなかった方向に動きました。
まず同年7月、プーチン氏は論文「ロシア人とウクライナ人の歴史的な一体性について」を発表しました。そして秋以降、ロシア軍の戦力が再びウクライナ国境に集まり始めました。昨年12月ごろになると、ロシアは米国や北大西洋条約機構(NATO)に対して「NATO東方不拡大論」を唱え始めます。米ロ首脳会談から半年ほどの間に、ロシアはバタバタと要求を出してくるようになりました。
――米国やNATOはロシアの要求を拒みつつ、譲歩する姿勢も見せています。
米国はミサイル配備や軍事演習の制限などで譲歩する姿勢は見せていますが、これらはロシアにとって全く本丸でない話で、「都合のいい部分だけつまみ食いするな」という反応を示しています。ただ、ロシアも自らの要求を米国やNATOがすべて受け入れると思っていないでしょう。短期的に見れば、西側に対して最大限「高い球」を投げつけておいて、最低限獲得したいのは、ウクライナ東部の政府と親ロ派の紛争を巡って2015年に成立した「第2次ミンスク合意」に定める和平プロセスの履行でしょう。さらにウクライナの憲法を改正して中立化条項を盛り込んだり、ウクライナ自体を「連邦化」してロシアに逆らえない弱い国の集まりにしてしまったりするようなことも狙っている可能性があります。
国境周辺に総兵力の9分の1
――ロシア軍にとって、10万人規模の兵力を集結させることの意味は?
ロシア軍の総兵力は約101万3千人だと決められています。実際に兵隊が何人いるかは非公表ですが、90万人程度だとされますので、総兵力の9分の1程度をウクライナ周辺に集めているわけです。陸上兵力に限れば約36万人がいるとされ、うち半数くらいは短期的な徴兵による人員です。つまり、職業軍人だけで構成された戦闘能力のある部隊の多くを、この地域に投入していることになります。内訳を見ると、軍の中でも精鋭部隊であることが分かります。ロシア軍が保有する、戦車を中心とした四つの部隊をすべて集めています。ロシアとウクライナの国境だけでなく、北のベラルーシとウクライナの国境にも兵力を配置し、南のクリミア半島にも兵力を置いている。いまウクライナは、どの方向から何を仕掛けられてもおかしくない状況におかれています。ロシアが何を仕掛けてくるか、現時点では不明ですが、やると決めれば相当な規模の軍事作戦が展開できる状況にあります。
一方で、ロシア軍がウクライ…
2022-01-27 21:30:00Z
https://news.google.com/__i/rss/rd/articles/CBMiN2h0dHBzOi8vd3d3LmFzYWhpLmNvbS9hcnRpY2xlcy9BU1ExVzY1SkNRMVdVSEJJMDMzLmh0bWzSAQA?oc=5
No comments:
Post a Comment