
<ママ、今どんな表情をしていますか><こんなダメな私でごめんなさい>。2019年1月、大分県立高校の2年生だった女子生徒(19)は、母親宛ての遺書を残して自殺を図った。命はとりとめたが、今も意識不明の状態が続く。なぜこんなことを――。母親は、娘のスマホに残るメッセージを読んで驚がくする。そこには、男性教員からの信じられない誘いの言葉が残っていた。
女子生徒が高校に入学したのは17年の春。母親によると、
2年生に進級した18年夏、女子生徒は体調を崩して入院した。男性教員はすでに担任を外れていたが、病院に見舞いに訪れた。
後に母親が娘のスマホから見つけ出す無料通信アプリ「LINE」のやりとりによると、この頃から親密な関係が始まったようだ。高校は教員と生徒との私的なSNSのやりとりを禁じていたが、2人は頻繁にメッセージを交わした。
スマホには目を疑うようなメッセージが残っていた。「今日、おれの家に泊まれる?」「しようよ~~」
「娘のことを心配してくれる良い先生だと思い込んでいた。先生は結婚もしているのに、まさかこんなことが起きていたとは」。シングルマザーとして女子生徒を育ててきた母親は、衝撃と憤りで声を震わせた。
18年秋になると、女子生徒は何度も、「元の関係に戻りませんか」「先生がしんどいかはわかんないけど、私はしんどい」と、関係を断ち切ろうとするメッセージを送っている。
にもかかわらず、男性教員は「おれはずっと、恋人でいたいよ」などと関係の継続を求めた。
女子生徒が母親宛ての遺書を自室の机に残して、自殺を図ったのは年が明けた19年1月17日の夕方。この直前、男性教員は女子生徒と2人きりで会っていた。その後、仕事から帰宅した母親が、自室でぐったりしている姿を見つけ、女子生徒は救急搬送された。
「なぜ娘は死のうとしたのか。あの日、何が起きたのか」
数か月後、母親は娘との関係を問いただすために、男性教員のもとを訪ねた。「LINEを見ました」と伝えると、男性教員は「一線を越えていました」と声を絞り出したという。
19年7月、男性教員は女子生徒と性的関係を持ったとして懲戒免職処分となり、その後、県青少年健全育成条例違反で罰金30万円の略式命令を受けた。ただ、県から十分な説明はなく、母親は20年1月、「教師の立場を利用し、性的関係を持って自殺未遂に追い詰めた」として県に約1億3000万円の損害賠償を求める裁判を起こした。
県側は提出した書面で「教員の私的な行為で、学校側に監督責任はない」「性行為は強要ではなく合意の下で行われ、不法行為ではない」と主張。「女子生徒が自殺を図った理由は個人的な問題で、男性教員や学校が対応すべき問題ではない」とも主張して、争う姿勢を示している。
裁判では県側の証拠から、女子生徒が自殺を図る2日前のやりとりも、新たに判明した。
「もう別れて欲しい。大好きで離れたくないんだけど、そうすべきだって、先生も薄々気づいているでしょ」「最近私死ぬことしか考えてない」
2年以上がたった今も、女子生徒の意識が回復する見込みはない。人工呼吸器につながれ、母親が手を握っても反応はない。
「男性教員と関係を持ってしまったことに苦しみ、死を選ぶしかないと思い詰めたのではないか」。母親はそう語り、唇をかんだ。
懲戒免職となった元教員の男性は4月上旬、読売新聞の取材に対し、「何も話せない」と答えた。
信頼していた教員から性被害を受けた子供たちの心には、大きな傷が残る。今回はそうした心の傷の深刻さと、時間の経過に伴って被害が浮かび上がる構図、法制度の課題に迫る。
児童精神科医で、兵庫県こころのケアセンターの亀岡智美副センター長は「一般論」と前置きした上で、「性被害は心的外傷の中でも特に重く、信頼する人から受ける性被害は『裏切られた』という思いも重なって、より深刻だ。子供は親に心配をかけまいと隠すことが多く、親が性被害を見抜くことは難しい。本人が被害を打ち明けられるよう、周りの大人は変化を見逃さないよう注意が必要だ。子供が被害を打ち明けてくれたら、過小評価せず、しっかりと受け止めてほしい」と話す。
教員からわいせつな行為を受けた方、家族や保護者の方、「許すな」取材班までご連絡ください。メールアドレスはsos@yomiuri.com。郵便は〒100・8055 読売新聞社会部 FAXは03・3217・8363。連載のご感想もお寄せください。
2021-04-21 20:00:00Z
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