米南部テキサス州で1日、胎児の心拍が確認された後(妊娠約6週以降)の人工妊娠中絶を原則禁止する州法が施行され、連邦最高裁も容認した。米国では最高裁が1973年に中絶の権利を認める憲法判断を示しているが、新州法は全米で最も厳しい規制となる。民主党のバイデン米大統領が州法施行と最高裁の判断を続けて批判するなど、国論を二分する中絶の是非を巡って論争が激化している。
テキサスの新州法は今年5月、州の上下両院の多数派と知事ポストを占める共和党の主導で成立していた。中絶容認派は「妊娠初期には妊娠に気がつかない女性も多く、中絶がほぼ不可能になる」と主張。州法の施行差し止めを求める訴えを起こしていたが、最高裁は1日、差し止めを認めない判断を5対4で下した。州法が合憲か違憲かの判断は示さなかった。
バイデン氏は1日の声明で「露骨に憲法上の権利を侵害するものだ」と州法施行を非難した。2日にも声明を発表し、最高裁の判断について「50年近く憲法で認められてきた女性の権利に対する前例のない侵害だ」と非難し、保健福祉省や司法省などを中心にして、早急に対策をとると述べた。
テキサスの新州法では、心拍確認後の中絶に関与した医師や医療スタッフらを民事訴訟で訴えて勝訴すれば、1万ドル(約110万円)以上の「法定損害賠償」が得られる。母体に危険がある場合は例外だが、レイプの被害者でも中絶は認められない。
原告の資格は特定されておらず、誰でも訴訟を起こすことが可能だ。一方、中絶の「ほう助」や「教唆」だけでも訴訟の対象となり、妊婦を乗せた運転手や相談を受けた家族まで訴えられかねないとの不安が広がっている。
テキサス州の中絶専門医、バービック・クマールさん(36)の勤務先では、2020年に中絶処置をした女性の86%が妊娠6週以降だった。クマールさんは「今までで最も厳しく、極端な規制だが、法律には従うしかない」と話す。患者には他の州に行くよう助言するが、交通費さえ払えない人もいるという。「困った女性が、衛生や安全が確保されていない非合法の方法で中絶するのではないかと心配だ」とも語る。
中絶容認派のNGO「ガットマチャー研究所」によると、妊娠6週後の中絶を禁止する州法はテキサス以外に12州にあるが、いずれも違憲訴訟が起こされ、施行を差し止められた。他の州法は警察など法執行機関が「違法な中絶」を取り締まる内容で、民事訴訟の対象になるとしたのはテキサスの州法が初めて。
州の法執行機関が取り締まる規定にした場合、裁判所が判例に基づいて州当局に施行差し止めを命じる可能性が高い。テキサスの州法は、州当局が関与せずに不特定多数が原告になり得る仕組みを作って、司法判断を難しくさせる狙いがあるとみられる。最高裁も1日の判断で、施行差し止めを認めない理由として「新しく複雑な手続き上の問題がある」と説明した。
最高裁では中絶に否定的な保守派が最高裁判事の9人中6人を占めているが、1日の判断では保守派から1人が施行差し止めに賛同していた。今年秋から来年にかけて、妊娠15週以降の中絶を禁止する南部ミシシッピ州の州法の合憲性について審理する予定。この訴訟では最長で妊娠28週までの中絶を認めた憲法判断が覆る可能性が指摘されている。【ワシントン秋山信一】
からの記事と詳細 ( テキサス州、「全米で最も厳しい」中絶禁止法施行 妊娠6週以降 - 毎日新聞 - 毎日新聞 )
https://ift.tt/2WKgwvh
No comments:
Post a Comment