髪の毛や糸が乳幼児の指などに絡まり、締め付けられて起きる「ヘアターニケット症候群」が注目されている。元アイドル・アナウンサーの紺野あさ美さん(34)が10月、次男が同症候群になったとみられるとブログで報告し、話題を呼んだ。医師の間でも知られていないというヘアターニケットとはどんなものなのか。
突然腫れた指、絡んだ髪
「髪の毛が関節などに絡まってうっ血してしまうことをヘアーターニケットというそうで…」
アイドルグループ「モーニング娘。」のメンバーやテレビ東京のアナウンサーとして活躍し、現在は3人の子を育てている紺野さんは10月16日、自身のブログに投稿した。
この夏に生まれたばかりの次男の足の指2本に毛が絡まり、指先が腫れ上がっていたという。写真も公開した。
自ら取り除いたが、「まだ髪の毛が残って血が止まっていたら大変なことになる」と急いで病院を受診した。
毛は取れており、症状は快方に向かったが、「見つけた時は血の気が引いた」「本当に怖く感じた時間でした」と紺野さんはつづった。4回連続の投稿はネットで反響を呼んだ。
「髪の止血帯」19世紀に報告も
ヘアターニケットは英語で「髪の止血帯」を意味する。
髪や糸などが体の一部に巻き付き、血流が悪くなる現象のことだ。最悪の場合、患部が壊死(えし)して指などの切断に至ることもある。
痛みなどを自ら訴えるのが難しい乳幼児の場合は発見が遅れる恐れがある。
兵庫県立こども病院の小児救急医、竹井寛和さんは2019年、当時勤めていた東京都立小児総合医療センターでヘアターニケットと診断された8症例を調べた。このうち、生後数カ月の子の足の指に体毛が巻き付いたのが5件を占めた。
女子中学生の性器に陰毛が絡んだり、舌に髪の毛を巻き付けて遊ぶうちに取れなくなったりした例もあったという。
海外では19世紀前半にすでに報告されているが、日本ではまとまった症例報告が少なく、医学書にもほとんど記載されていない。竹井さんは「医師の間でも認知が進んでいない」とみる。
発生する原因ははっきりしていない。竹井さんによると、出産後の女性はホルモン変化で髪の毛が抜けやすくなることに加え、乳幼児が手足に触れたものを無意識に握る反射行動の影響が指摘されている。
まず指を確認、恐れすぎずに
千葉県松戸市の市立総合医療センターの平本龍吾・小児医療センター長は「赤ちゃんが泣きやまなかったり、不機嫌が続いたりする時にはヘアターニケットの可能性もある。手足の指を確認するということをまずは覚えておいて」と話す。
一方で、「産後の女性は精神的に不安定になりやすく、睡眠不足に陥る人も多い。発生頻度の低いヘアターニケットを過度に心配することは、かえって産後うつを招く恐れもある」とも助言する。
人気漫画にも登場
ヘアターニケットの周知をめざす動きもある。
週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)で連載中の漫画「プラタナスの実」で昨年10月、ヘアターニケットになった乳児が登場した。泣きやまない理由がわからない両親は、主人公の小児科医が居合わせた病院に駆け込む。
作者の東元俊哉さんはテレビドラマ化された「テセウスの船」を手がけた人気漫画家だ。長女が生まれたとき、友人から「泣きやまなかった時は服を脱がせて体を見た方がいい」と助言され、ヘアターニケットのことを知ったという。
連載では「読者の中にも同じ病気の方がいるかもしれないということを意識している」という東元さん。描く前の取材でヘアターニケットについて「小さな子がいる家庭では身近に潜む病態の一つかも」と感じた。乳児の処置が無事済み、家族が笑顔を見せる作中のシーンに思いを込めたという。
穴あきの便利靴下でチェックを
東京都千代田区の会社員、愛甲日路親(ひろみ)さんは乳幼児向けの「あなの開いた靴下」(1組税込み3千円)を考案し、今年1月からオンライン(https://www.ettu-baby.com/)で販売している。履かせるのが楽なうえ、履かせるときに足に異状がないか、目で確認しやすい。ヘアターニケットについての情報をまとめたちらしも同封している。
18年に長女を出産した後、ネットでヘアターニケットのことを知った。
自身も長女の足の指に毛が絡まっているのを見つけたことがある。「子どもには身近な危険だと感じる。この商品がヘアターニケットを知るきっかけになってほしい」と話す。(山本逸生)
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