腎臓や肝臓などの臓器で起きている複雑な現象を、手のひらサイズのキットで再現する「臓器チップ」=写真、京都大の横川隆司教授提供=が注目を集めている。樹脂製の板の内部に複数の種類の細胞を流し込む実験装置で、病気の原因解明や創薬などへの応用が可能という。医学研究に不可欠な動物実験の削減につながることも期待されている。(松田祐哉)
京大の横川教授や理化学研究所のチームは5月、腎機能の一部を臓器チップで再現することに成功したと、国際科学誌に論文を発表した。
チームは、筒状の2本の流路が隣り合う内部構造を持つチップ(縦3センチ、横2センチ、厚さ0・5センチ)を開発。iPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った腎臓の細胞と、血管の細胞をそれぞれの流路に入れたところ、実際の腎臓と同様に、細胞間でたんぱく質や糖などがやり取りできていた。
腎臓は、薬の吸収・排出にもかかわる重要な臓器で、筑波大の伊藤弓弦教授(幹細胞生物学)は「人の腎臓の機能をどこまで再現できているか精査する必要があるが、薬の開発に使える可能性がある」と評価する。
臓器チップは、新型コロナウイルス感染症が重症化する仕組みの解明に向けた研究にも貢献している。
京大や大阪大などのチームは昨年9月、同様のチップ(縦4・5センチ、横3センチ、厚さ0・8センチ)を使って気道の様子を再現した成果を発表。気道の細胞に新型コロナウイルスを感染させた実験で、血管の細胞の間にウイルスが入り込む現象が確認できたという。チームの高山和雄・京大講師は「細胞間の相互作用を見られるのが強み。感染症研究にとっても優れたツールだ」と話す。
2023-06-25 07:03:00Z
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