ロシアのプーチン大統領は民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏との瀬戸際の取引によって、モスクワへの攻撃を何とか回避することができた。
ただ、ワグネルの武装蜂起は過去約四半世紀にわたり同国を政治的に完全支配してきたプーチン氏のオーラにかつてないほど風穴を開けることになった。
ロシア政府の内部事情に詳しい関係者の間では、プリゴジン氏が重武装のワグネル戦闘員の部隊をモスクワに進撃させる準備をしているとの度重なる警告をプーチン氏が無視してきたことに衝撃が広がっている。
プーチン氏がワグネルの首都接近を見過ごした結果、当局は戦車や軍部隊をモスクワ防衛のため配置することを余儀なくされ、伝説的とも言える同氏の内政掌握について以前には考えられなかった疑念が生じている。
米国と欧州の情報機関も今回の武装蜂起の事前の兆候を把握しており、米欧当局者はプーチン氏(70)にとって前代未聞の挑戦になったと内々に指摘。プリゴジン氏と同氏の配下をとがめないとした玉虫色の決着でも緊張に終止符が打たれる公算は小さいと警告する。
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当初、数日間と想定されたロシアによるウクライナ侵攻は1年5カ月目に入り、プーチン氏が何年もかけて作り上げてきた安定の外観は、戦争の膠着(こうちゃく)状態で打ち砕かれたことが最新の混乱で浮き彫りとなった。
かつてクレムリンのイベントで料理の仕出しを担当し、プーチン氏の長年の保護の下で出世を遂げたプリゴジン氏は、ロシア大統領に対するものとしては1993年以来となる軍事的挑戦を突き付けた。戦争を始めた指導者が、その行き詰まりで流血の結末を迎えた歴史を繰り返したロシアにとって、暗い兆しと言える。
現在はドイツの首都ベルリンを拠点とするロシア政治の研究者、エカテリーナ・シュルマン氏は「これはプーチン氏の全政治的キャリアにおいて、公になった最大の失敗だ。プリゴジン氏の反乱はロシアの政治体制が実際はいかに脆弱(ぜいじゃく)かをあらわにした」と話した。
欧州のある極秘の情報分析では、今回の危機はプーチン氏個人の失敗と見なされ、同氏とロシアはいずれも弱体化する公算が大きいと推測されている。
ロシア占領地域の奪還に向け反転攻勢に最善の望みを掛けるウクライナは、ロシアの混乱に歓喜している。ウクライナ政府はワグネルとの戦闘が何カ月も続いてきたバフムト周辺やさらに南部で同国軍が前進しつつあると説明。マリャル国防次官は24日、「全ての前線で進展が見られる」と語った。
プーチン氏の弱さが意識されたことで、ウクライナの同盟国の中でもロシアによる侵略に一段と強い対応を呼び掛けている国々を勢いづける可能性がある。西側諸国の高官の1人が明らかにしたもので、ウクライナが同盟国のコミットメント強化を訴えるとみられるリトアニアの首都ビリニュスで来月開催の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が、特にそのような機会になると考えられるという。
だが、ウクライナのパートナー諸国の中にはもっと慎重な動きもある。こうした国々が懸念しているのは、ワグネルが引き起こした混乱の結果、ウクライナでの戦争を強化したいロシアの強硬派の立場を強固にしたり、プーチン氏が自分への忠誠心を欠くと見なす勢力への国内での弾圧を強め、さらに予測しづらくなったりする可能性だ。
こうした不確実性の下、米欧各国政府は当局者に対し、公の発言で慎重を期すよう指示している。
プーチン氏は週末、ロシアの同盟諸国に電話し、安心を呼び掛けた。ウクライナでの戦争を通じ、同氏を支持してきた中国には外交官を派遣し、「6月24日の出来事」を説明したと、ロシア外務省は遠回しに表現した。中国政府は会談の説明に当たり、武装蜂起に言及さえもしなかった。
プーチン氏が過去にも国民の抗議活動や経済危機、外国からの圧力といった自身の権威への脅威を乗り越えてきたのは確かだ。当面は、同氏の支配への差し迫った挑戦のサインはない。しかし、プーチン氏が2030年まで政権維持を可能にしようと、来年の大統領選に備える状況にあって、同氏が政治的に無敵なのか疑念が強まっている。
事情に詳しい複数の関係者によれば、長期化するウクライナでの戦争を巡り、ロシアのエリートの間では過去数カ月にわたり緊張が高まっている。一段と攻撃的な軍事行動の追求を唱える陣営と、同国へのダメージを抑制するため早期の決着を望む陣営との間で対立も生じており、双方のバランスを取ろうとするプーチン氏の取り組みは難しさを増しているという。
ロシア指導部に近い複数の関係者の話では、プーチン氏はかつて自分の給仕係だったプリゴジン氏の野心をうまく管理することができると自信があった。歴戦で鍛えられたワグネルの戦闘員は戦場での正規軍の不備をカバーし、軍司令官を罵倒するプリゴジン氏の非難は、パフォーマンスが劣る軍幹部に圧力を加えることができた。
それでもなかなか戦果を収めることができない状況で、プリゴジン氏の影響力はクレムリンからの多額の資金や支援を背景に強まっていった。ソーシャルメディアでの同氏の一見したところ歯に衣(きぬ)着せぬ発言は、公式プロパガンダにうんざりした一般のロシア国民の多くを魅了した。さらに重要なこととして、プリゴジン氏は治安当局や政府のエリートの中の重要な強硬派の支持を集めることになった。
こうしたエリートらは、プーチン氏をはじめとする多くの高官がウクライナでの勝利達成に十分コミットしておらず、停戦で決着させるのではないかと憂慮しているという。
複数の関係者によると、クレムリンではプリゴジン氏の影響力増大に懸念が強まっていたが、同氏が武装蜂起を準備しているとの複数の警告をプーチン氏ははねつけていた。
その後、プーチン氏がようやくプリゴジン氏を制御しようとしたことが危機の引き金になったと関係者は話す。ロシア国防省が今月、ワグネルの戦闘員に対し7月1日までに同省と契約を結ぶよう命じたことで、反発を強めたプリゴジン氏は戦闘員の部隊を率いてクレムリンに直接不満を訴えようとした。
ベラルーシのルカシェンコ大統領が仲介した合意で、プーチン氏はプリゴジン氏のベラルーシへの出国を認め、同氏とワグネルの戦闘員に対する反乱罪での刑事訴追に向けた手続きを取り下げることを自ら保証した。
プリゴジン氏が24日夜にロストフナドヌーを去る際には、群衆が声援を送る様子が現地からの動画で伝えられた。
ロシア政府に近い政治コンサルタント、セルゲイ・マルコフ氏は「彼らは取引するしかなかった」とコメントした。
プーチン氏の支持者の1人は25日、プリゴジン氏とワグネル戦闘員が全くとがめられることがなかった点にショックを受けたとし、プーチン氏は自分が何をしているのか本当に分かっているのか疑問になると明かした。
原題:Putin Faces Historic Threat to Absolute Grip on Power in Russia(抜粋)
2023-06-26 05:50:41Z
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